ハリネズミのジレンマの意味とは?
ハリネズミのジレンマとは「人間関係において、相手との距離感に悩む様子」を指す心理学用語です。
人間関係において自分や相手が傷つくことをおそれるあまり、相手との距離感に悩む葛藤を指しています。
また、英語で”dilemma”と表記される「ジレンマ」は「板挟み」という意味を持ち、2つの選択肢のうちどちらをえらんでも問題がある状況で使われています。
ハリネズミのジレンマは寓話をもとにして生まれた理論
ハリネズミのジレンマは、哲学者ショーペンハウアーによる以下の寓話から生まれた言葉です。
ある冬の日、2匹のヤマアラシは嵐にあいました。
2匹は寒いので、お互いの体を寄せ合って暖をとろうとしたところ、それぞれのトゲで相手の体を刺してしまいます。
痛いので離れると、今度は寒さに耐えられなくなりました。
2匹はまた近づき、痛いのでまた離れることを繰り返していくうちに、ついに、お互いに傷つけずにすみ、しかもほどほどに暖めあうことのできる距離を発見し、あとはその距離を保ち続けました。
この寓話では、2匹のヤマアラシが、寒さを和らげるために互いの体で暖を取ろうとするも自身のトゲで相手や自分を痛めつけてしまい、最後には距離をおいてしまうという切ない様子が表現されています。
動物などを使って比喩的に教訓や風刺を盛り込んだ話を「寓話」と言う。
元々はヤマアラシのジレンマ
先ほどの寓話からもわかるように、「ハリネズミのジレンマ」は本来、「ヤマアラシのジレンマ」という言葉でした。
日本で「ハリネズミのジレンマ」という表現がされる理由は、有名なアニメにあります。
1995年より放送された大人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」第四話「雨、逃げ出した後」のサブタイトルにて「Hedgehog's Dilemma(ハリネズミのジレンマ)」という造語が使われたからです。
不器用な性格の主人公・シンジのあり方は、攻撃的なヤマアラシより臆病なハリネズミの方が似ていることからHedgehog's Dilemmaという表現がされたそうです。
ハリネズミ指数とは?
「ハリネズミ指数」とは、各個人の持つ人間関係において「ハリネズミのジレンマ」がどの程度起こっているのかを示した指数です。
ヤマアラシのジレンマの提唱人であるレオポルド・ベラック氏によって考案されたこのハリネズミ指数は「P.I(ハリネズミ指数)=刺激の数×強度×持続」の式で求められます。
刺激の数 (友人の数) |
強度 (会う回数) |
持続 (一回で過ごす時間) |
P.I (ハリネズミ指数) |
|
Aさん | 10 | 10 | 10分 | 1000 |
Bさん | 1 | 5 | 180分 | 540 |
Aさんは友人が多く会う頻度も高いですが、傷つくことを恐れ、過ごす時間が少なく、表面的な関係になっています。
そのため、ハリネズミ指数が高い状況にあると考えられます。
また、Bさんは友人の数は少ないですが会った際に過ごす時間が長く、相手に心を開いている状況であると考えられ、ハリネズミ指数はAさんの約半分となっています。
ハリネズミのジレンマが及ぼす人間関係
ハリネズミのジレンマ状態に陥ると、人とのコミュニケーションがぎこちなくなったり、相手との関係が曖昧になったりと人間関係にさまざまな影響が出てきます。
コミュニケーションの取り方が分からない
まず第一に、ハリネズミのジレンマ状態では、相手との距離感がわからなくなりコミュニケーションがぎこちなくなってしまうことがあります。
相手にどう思われるか心配するあまり表面的なコミュニケーションをとってしまい、スムーズなコミュニケーションができない状況です。
関係をはっきりすることが苦手
そして第二に、関係をはっきりさせるのが苦手になってしまうという影響があります。
特に恋愛面では、恋人になりたいけれども今の友人関係を壊したくないというハリネズミのジレンマ状態に陥り曖昧な関係が続いてしまうケースが多いです。
自分の意見を突き通してしまう
第三に、自分の意見を押し通してしまい、人間関係を悪化させてしまうということが挙げられます。
それは、ハリネズミのジレンマ状態により、恋人や友人との距離感を見誤ってしまい、自分を認めてもらおうという気持ちが強くなりすぎるためです。
結果的に相手との関係がわるくなってしまいます。
ハリネズミのジレンマの原因とは
ではなぜハリネズミのジレンマは起こってしまうのでしょうか?
その原因を3つご紹介します。
自己防衛の気持ち
相手との関係を深めることによって自分が傷つきたくないという気持ちからハリネズミのジレンマが起こってしまうことがあります。
相手に一歩踏み込みたいけど、拒絶されて悲しい思いをしたくないという自己防衛の感情がハリネズミのジレンマを引き起こすのです。
例:「あの子ともっと仲良くなりたいけど、いつか離れてしまうかもしれない…怖い…」
過去の経験
また、過去の経験から、人間関係を深めることを避けてしまうということも原因としてあげられます。
親友からの裏切りや恋人とのトラブルなど、過去のトラウマが「もっと仲良くなりたい」という感情のストッパーとなってしまうことも原因です。
例:「○○ちゃんのことが好きだけど、もしかしたらまた浮気されてしまうかも…」
激しい思い込み
自己肯定感が低い場合や過去の失敗がトラウマになっている場合「自分は相手にとって必要ない」と否定的な思い込みをしてしまい、相手との関係がぎごちなくなってしまいます。
一方的な思い込みで相手を遠ざけることによって、ハリネズミのジレンマが引き起こされることがあるのです。
例:「自分は○○くんには釣り合わない‥多分○○くんもそう思っているだろうし距離を置こう…)」
ハリネズミのジレンマの対処法とは?
人間関係においてたびたび起こってしまうハリネズミのジレンマですが、その対処法を知ることで、トラブルを避けることができます。
価値観が違うことを理解する
相手と自分は違う人間であり、考え方や価値観の違いによって衝突することもあるということを念頭に置くとハリネズミのジレンマは起こりにくくなります。
相手と意見が違っていても、相手や自身の人間性を否定せずに、前向きに話し合いをしてみましょう。
自分の気持ちを素直に伝える
自分の気持ちを偽り、相手と表面的なコミュニケーションをとることは避け、初対面の人やまだ関係が浅い人にも正直な気持ちを話してみましょう。
ただし、正直すぎると失礼な印象を持たれてしまうこともあるので注意が必要です。
客観的に考える
自分の思い込みで一方的に関係を解消する前に、一度立ち止まって客観的に相手との状況を振り返ってみましょう。
冷静になることによって、自分の思い込みだったことや相手の気持ちも見えてきます。
ハリネズミのジレンマまとめ
ハリネズミのジレンマとは相手との距離を縮めたいと思う反面、近づきすぎて拒否されることを恐れてしまうという心の葛藤からうまれる心理状態のことを指します。
相手との関係がこじれるほど考え込んでしまう前に、一度立ち止まって冷静に自分の気持ちや相手の状況と向き合うことが必要です。
本記事のチェックポイント
- ハリネズミのジレンマは、人間関係での心の葛藤を指す用語
- ショーペンハウアーの寓話を、べレック氏が引用して生まれた言葉
- ハリネズミのジレンマの程度は指数で表せる
- ハリネズミのジレンマには冷静に対処することが必要