ロールシャッハテストとは?
ロールシャッハテストとは「インクを垂らしただけの絵を見せて、それが何の模様に見えるのかテストし、深層心理を探る」ものです。
心療内科でもよく用いられるロールシャッハテストですが、どんなテストなのでしょうか?
ロールシャッハテストの例と解釈
ロールシャッハテストには上の画像のような絵柄が書かれたカードを使用します。
このカードは「ロールシャッハ・カード」と呼ばれ、紙の上にインクを落として2つ折りにして広げることにより作成されたほぼ左右対称の図版を持つカードです。
カードは約17cm x 24cmの大きさで、無彩色のカードと有彩色のカードがそれぞれ5枚ずつの10枚1組となっています。
テスト結果の解釈は以下の7つをもとに行います。
反応領域 | カードのどこに見えたかを表す |
発達水準 | カード同志を関連付けて見ているかを表す |
反応決定因 | カードのどんな特徴から見えたかを表す |
形態水準 | 現実を捉える適切な反応をしているかを表す |
反応内容 | カードに何を見たのかを表す |
平凡反応 | 一般的によく見られやすい反応かを表す |
特殊スコア | 特殊な反応に対してつける |
心の疲れは目に見えないから必要なテスト!
ロールシャッハテストは目には見えない心の疲れを調べ、治療方針を決めるのに適しています。
ロールシャッハテストの歴史
目に見えない、深層心理を探るテストとして、ロールシャッハテストは有名ですが、なぜロールシャッハテストは生まれたのでしょうか?
歴史と共にひもといていきましょう。
H.ロールシャッハによる開発
ロールシャッハテストはスイスの精神科医「ヘルマン・ロールシャッハ」により開発されました。
ロールシャッハテストの誕生のきっかけはロールシャッハが子供の頃にあります。
当時はただの遊びの1つでしかありませんでした。
1890年代初期、ロールシャッハがまだ子供だった頃スイスでは、「クレクソグラフィ」という、紙にインクを垂らして半分に折り、出来た模様が何に見えるか当て合うゲームがはやっていました。
その後、ロールシャッハは医学の道に進むため、大学に通い始めます。
その際、たまたま、自分が子供だった頃と同じように「クレクソグラフィ」で遊ぶ子供たちを見かけました。
そして、その子供たちを見ていると、才能豊かな子供ほど、創造性を膨らませ、いろんな物の見方をしていることに気づいたのです。
ロールシャッハは、この発見を心療内科に活かすことができないかと、友人と共に研究し始めました。
1921年には、ロールシャッハの主著『精神診断学』が刊行され、被験者にインクのしみを見せて何を想像するかを述べてもらい、その言語表現を分析することによって被験者の思考過程やその障害を推定する「ロールシャッハ・テスト」を考案したとして名高い人物となります。
『精神診断学』の中で、300人もの精神病患者や100人もの被験者についての成果を発表しており、以後、精神医学の評価や診断のツールとして用いられるようになりました。
スコアリングシステムの混乱
ロールシャッハテストは、目に見えない心の状態を探る上で、画期的なアプローチとして多くの研究者が活用するようになります。
しかし、ロールシャッハの没後、いろんな考えを持つ研究者が、独自の視点で、ロールシャッハテストを定義づけてしまいます。
そのため、本来ガイドラインがあったはずのスコアリングシステムが複雑化されてしまい、混乱を招いてしまったのです。
1936年から1957年の間に、それぞれが各自のロールシャッハテストの体系を立てた結果、米国には5つのロールシャッハ体系が誕生し、多くの混乱が生じてしまいました。
折角のロールシャッハテストも、基準を勝手に変えて、独自の方法で行われたら、何が正解なのか分からず混乱をきたしてしまいます。
エクスナーの「包括システム」の出現
一時、スコアリングシステムが混乱を招き、意味をなさなくなってしまったロールシャッハテストですが、アメリカ出身の心理学者・エクスナーの登場によって混乱は収まります。
1928年にニューヨーク州シラキュースに生まれたエクスナーは、コーネル大学で臨床心理学の博士課程に入学し、ロールシャッハテストに興味を持ちました。
そこでは異なるロールシャッハ体系を作った2人の元で学ぶことになり、仲違いをしている2人を見て違和感を覚えたエクスナーは、5つのロールシャッハ体系を学びます。
その中で、「もっとも実証的裏づけのあるものはどれか」「もっとも臨床的に役立つものはどれか」という2つの基準に照らして、実証に堪えうる新しい体系を確立することを目的として1968年米国に「ロールシャッハ研究財団」が設立されます。
財団が調査を行った結果、 ロールシャッハテストを使用する心理臨床家のほとんどが異なるアプローチを混合して用いたり、自分流の方法を組み合わせたりしていることが明らかになりました。
エクスナーは、個人的な経験をもとにしたスコアリング法を極力減らし、 多くのデータを統計的に分析した結果をもとにスコアリング法や解釈を組み立て、これらのスコアリングから確かな要素を集めて「包括的システム」と呼ばれるシステムを完成させました。
アメリカと日本の現在
私たちの心の状態を探る目的で活用されるロールシャッハテストですが、アメリカと日本では、考え方が多少異なります。
アメリカの考え方
米国では、エクスナーの死後もさまざまな研究が続けられていましたが、現在も「包括システム」が圧倒的に普及し支持されています。
進歩、発展はあるとしても、ベースをいじって混乱を招くことは禁忌とされ、基準をしっかり持ったまま長年研究が進んでいるようです。
日本での考え方
一方、日本では、地域性や国民性が影響を及ぼすために、エクスナーが提唱した包括システムをそのまま活用できませんでした。
そのため、日本では、心理学者・片口安史氏が提唱した片口式スコアリングシステムを適用し、包括システムとうまく組み合わせながら、ロールシャッハテストを行っています。
しかし、現在は「包括システム」が主流となり、長年にわたって広く用いられています。
このように、多少の違いはありますが、それぞれの地域に適したロールシャッハテストが行われているわけです。
片口式スコアリングシステムとは
模様の反応箇所や反応速度を細かく測りスコアに落として心理状態を探っていくスコアリングシステムです。
ロールシャッハテストの実施法
検査環境
検査は、医師または臨床心理士と1対1、かつ個室で行い、包括システムにおいて検査者は対面を避け、被検者の隣のやや後ろに同じ方向で座ります。
ロールシャッハテストは深層心理を引き出すテストのため、不安や緊張が起こらないよう、リラックスできる環境でのテスト環境が重要です。
検査結果に基準があるとは言え、専門の知識の無い人にとって結果を導きだすのは至難の業となっています。
そのため、テストを受ける場合は専門の精神科医が所属する施設(または心療内科)で受けるようにしましょう。
検査道具・検査時間
検査時間 | 約2時間 |
検査道具 | ロールシャッハカード 記録用紙 ロケーションカード |
特に、あらゆる角度で精密にテストを行う片口式スコアリングシステムを用いている日本では、あらゆる角度でテストを行うために、ロールシャッハテスト一つにおいても時間がかかってしまいます。
ロールシャッハカード
検査者が被験者に見せる10枚のカード。
専門業者が販売しているため、ネットなどで見かけるものではありません。
記録用紙
決まった記録用紙があるわけではありませんが、だいたい同じような形式の記録用紙に被験者の反応を記録していきます。
ロケーションシート
10種の図柄を白黒とカラーに分け、プリントしたシートです。
そこに、カードに対する反応がどの部分に対する反応だったのかを記録します。
検査結果
検査結果は細かく診断され、下記のものなどを解明していきます。
- 依存性
- 自己認知
- 思考
- 対人関係(ストレスの大きさ、社交性など)
- 病理制(鬱、精神疾患にかかっているか)
それは、色・形による反応一つでも大きく異なり、例えば形に反応を強く示した場合、知的的思考が強いとみられ、逆に色に反応した場合精神的思考の強さが伺えます。
このように、反応した時間・場所(色や形など)によっても、ロールシャッハテストでは結果が大きく変わります。
ロールシャッハテストは、病気や障害の有無を診断するものではありません。
専門機関が実施するテストでは、以下を目的としたものが一般的です。
- 無自覚の反社会性や衝動性の有無をチェックするための検査として(警察官や教員など)
- 精神面・情緒面の問題の有無を探るため(原因不明の不調など)
ロールシャッハテストまとめ
ロールシャッハテストは深層心理を探るテストとして長年使用されてきました。
近年ではロールシャッハテストとしてインターネット上でもいくつか画像が取り上げられており、心理テストの一部として紹介されている場合もあります。
しかし、解釈には専門的な知識と技術が必要なため、しっかりとテストを受けたい人は専門機関を受診するようにしましょう。
本記事のチェックポイント
- インクを垂らした紙の模様を見て深層心理を探るテスト。
- 現在のスコアリング体系は、エクスナーが研究した「包括システム」が主流。
- 解釈には専門的な知識と技術が必要なため、結果の信憑性についての議論が今も続いている。
- ロールシャッハテストは必ず専門知識を持つ心療内科でテストを受けよう。